IKH - 新知創造学際ハブ

明治の浮世絵は色鮮やか~大阪公立大学での絵の具の分析

大阪公立大学大学院工学研究科 物理分析化学研究室の辻 幸一 教授は、微量元素分析と微小部元素分析を2つの目標としてX線機器分析法の研究を行っています。特に、蛍光X線を使った分析手法を開発し、工業材料を中心に応用分野を広げています。新知創造学際ハブの事例集『文化資源が秘めた歴史物語』第5章にも「3次元元素分析を実現する蛍光X線分析」と題してご執筆いただきました。

その辻教授に、新知創造学際ハブの参画機関である文学研究科 人文学学際研究センターの岸本 直文 教授と渡辺 健哉 教授が浮世絵の分析を依頼しました。

浮世絵に使われた西洋の絵の具

浮世絵の技法を使って描かれた美人画
講談本の表紙になっている
明治時代の浮世絵の例 『やまと新聞』付録の講談本表紙 大阪公立大学 人文学研究科 所蔵
江戸の街角で虫メガネを使って占いをしている男性と拡大された女性の顔をを見て驚く人々が描かれた浮世絵
江戸時代の浮世絵の例 歌川広景 画『江戸名所道戯盡 「三十四」「筋違御門うち」』東京都立中央図書館 所蔵

分析された浮世絵は、大阪公立大学 文学研究科に所蔵されている𠮷沢コレクションの一つで、「やまと新聞」という講談本の表紙です。講談本とは、ちょうど今の漫画のような明治時代の庶民の娯楽で、貸本として親しまれていました。その表紙を豪華な浮世絵が飾っているのですが、江戸時代の浮世絵とは色調が違い、とても鮮やかです。

例として、新知創造学際ハブの事例集の表紙に採用した江戸時代の浮世絵を並べてみました。絵の一部に、江戸時代の浮世絵にはない色の絵の具が使われ、人目を引く色彩になっていることが分かります。

浮世絵の絵の具の分析手法

絵の具の測定は、市販の蛍光X線分析装置(堀場製作所 XGT9000)と辻研究室自作の共焦点型微小部蛍光X線分析装置(3DXRF)で行われました。実験には辻研究室の藤井 蓮唯羅さん(実験当時修士課程2年生)が加わりました。

浮世絵は冊子の表紙に印刷されているので、表紙の下にアルミニウムや銅の板を挿入することで、冊子内部の影響を遮断しました。また、冊子本文の黒一色の印刷のページや、冊子を閉じたまま、深さ方向の分析も行いました。

表面をスキャンすることで、表紙の鮮やかな絵の具の部分に鉄やクロム、硫黄、ヒ素などが使われていることが分かりました。

蛍光X線分析とは

蛍光X線とは、原子にX線(蛍光X線と区別するために「一次X線」とよびます)が照射されたとき(a)に原子から出るX線(b)のことです。原子の中では電子が核から離れるほど高いエネルギーを持っています。一次X線が持つエネルギーが電子に吸収されると、電子は核の束縛を振り切って原子から飛び出します(光電効果)。空いた席にほかの電子が落ちてきますが、そのときに余分なエネルギーを蛍光X線として放出するのです。

この蛍光X線は元素によって固有のエネルギー(波長)を持つので、蛍光X線の波長を調べることで試料に含まれる元素を特定することができます。

蛍光X線発生の原理を描いた図
光電子の放出(a)と蛍光X線の発生(b)
辻教授「3次元元素分析を実現する蛍光X線分析」より

辻研究室オリジナルの分析法

通常の蛍光X線分析装置は、ある程度の幅を持った領域の情報を得ることができますが、共焦点型微小部蛍光X線分析(3DXRF)装置は、深さ方向の元素分布が分かることが特徴です。細いガラス管を数10万本束ねた特殊なレンズ(ポリキャビラリーX線フルレンズ)で微小X線源からの一次X線を大きな立体角で取り込み微焦点に集光します。試料内のX線が通過した位置で発生した蛍光X線は、ポリキャピラリーX線ハーフレンズで集光されてSDD(シリコンドリフト検出器:エネルギー分散型X線検出器の一種)に届きます。フルレンズとハーフレンズの焦点が一致するように配置することで、微小領域(深さ方向の分析モードの場合、1 mm角)の情報だけを読み取れるのです。その上で、共焦点の位置を試料の深さz方向にスキャンすれば、深さ方向の情報を得ることができます。

講談本に使われた紙の厚さは約0.01 mmでしたが、冊子を閉じたまま深さ方向の測定を行い、カラーの表紙とモノクロの本文の違いを見分けることができました。

蛍光X線による三次元測定を説明する図
共焦点型微小部蛍光X線分析装置の分析モードの一つ、深さ方向の元素分布測定
辻教授「3次元元素分析を実現する蛍光X線分析」より
蛍光X線分析装置 試料部の写真
共焦点型微小部蛍光X線分析装置
辻教授「3次元元素分析を実現する蛍光X線分析」より

蛍光X線分析の可能性

蛍光X線分析法は、非破壊で、ダメージを残すことがなく、大気中でも測定できる、ウェットな試料も測定できる、などの特徴を持っているので、さまざまな応用が可能です。蛍光X線分析が適用される試料は、文化財に限らず、法科学試料・環境試料・工業製品など多岐にわたります。

辻教授は、さらなる分析手法の開発を進めながら、蛍光X線分析の特徴を活かして応用分野がますます広がることを願っています。紙が使われた文化財資料も多く、依頼があれば文化財の分析も行っていくと話していました。

関連記事・ページ

ページ上部に戻るボタン