IKH - 新知創造学際ハブ

新たなストーリーを見出す考古学者を目指して~岡山大学 ライアン ジョセフ准教授

新知創造学際ハブの参画機関の一つ、岡山大学 文明動態学研究所には日本の古代史を研究しているライアン ジョセフ准教授がいます。流暢に日本語を話すライアン准教授に、日本で考古学者になった経緯から伺いました。

本棚を背景に笑顔を見せる男性

ライアン ジョセフ

RYAN Joseph

岡山大学 文明動態学研究所 准教授

専門分野:日本考古学、東アジア考古学

金属製品を中心に、弥生時代~古墳時代における集団間関係や社会複雑化を研究している

日本文化との出会い

侍を思い浮かべながら日本刀を観察する男性のイラスト
モデル:ライアン ジョセフ
イラスト:佐藤ジュンコ

アメリカの北部出身です。家具屋さんで偶然アジアっぽいデザインを見て、かっこいいなと思ったのが日本と出会うきっかけでした。一緒にいた母の友人に「中国が好きなの? 日本はどうですか?」と聞かれて、「日本ってどこだろう?」と、思ったのを覚えています。家に帰るとすぐ辞典で「Japan」を探してみました。特に歴史の項目を読んで、強く印象に残りました。

そこに書いてあったのは、現代の日本のことではなく、サムライや江戸時代についての説明でした。とても魅力を感じて、独学で日本のことを勉強し始めたんです。室町時代や江戸時代がどうして成立したか、それを調べるためにひとつ前の時代を勉強し、どんどん遡って、弥生時代や古墳時代など考古学でしか扱えない時代にたどり着きました。そして、日本の先史時代の研究者になりたいと思うようになりました。

しかし、アメリカで日本のことを勉強しようと思うと、情報が断片的で少ないのが問題でした。まず日本語を勉強しなければ、と思ったのが中学生の頃です。高校生になって日本人の家庭教師を見つけて、本格的に日本語を勉強し始めました。

考古学者になるまで

日本の歴史や考古学、東アジアについて学ぶために、ハワイ大学に入りました。学部2年生のとき、1年間、同志社大学に留学しました。日本の考古学者に会ったり、実際に日本の遺跡に触れたりして、生き生きと過ごしました。中学生のころからの夢だった考古学者への道に、一歩近づいたと感じました。

しかし、ハワイに戻ってから、果たして本当にアメリカ人の自分が日本の歴史の研究者になれるのだろうか、と考えるようになりました。大学を卒業してから約2年は、日本語の文章を英訳する翻訳業で生計を立てていました。本当は考古学をやりたいのに自分で無理だと決めつけて別の仕事をしていたので、どこかモヤモヤした気持ちがありました。婚約者(いまの妻)にはその葛藤が見抜かれていて、「本当にやりたい事があるなら、挑戦したら?」と背中を押してくれ、今も応援してくれています。

彼女の一言に勇気づけられて、大阪大学大学院の修士課程に入るため、国費留学に応募して合格したのは2012年のことです。とても嬉しかったですね。それから博士課程まで大阪大学に在籍し、ポストドクターとして岡山大学で2年間過ごし、そのまま岡山大学に残ることになりました。いまは岡山大学 文明動態学研究所で充実した毎日を過ごしています。

やっぱり鉄がおもしろい

卑弥呼の時代に惹かれて

日本の歴史で一番興味があり魅了されているのが、弥生時代から古墳時代です。社会の複雑化が大きく進み、研究者によっては最初の国家が生まれようとしていると考えられる頃であり、成り立っていないけど生まれようとしている躍動感あふれる感じが魅力的だと思っています。

またこの時代の大きな変化は、日本列島の中で完結するものではなく、広く朝鮮半島や中国など東アジアのさまざまな地域を巻き込んだ歴史的な展開です。中国や朝鮮半島との交流を無視して理解するのは難しく、ほかの地域も視野に入れて研究することがこの上なく大切だと考えています。

鉄器を追う

私は金属製品、中でも鉄製品を中心として研究を進めています。モノに密着した研究を心掛けて、モノの背景にいる人間に迫りたいと思っています。石・青銅器・木・骨など、遺物にはいろいろな素材がありますが、古墳時代は鉄にその当時の最先端の技術が盛り込まれているので、生産と流通という手工業生産の面だけでなく、地域間関係や社会・政治的関係など、さまざまな課題に迫ることができると考えています。鉄という一つの研究材料でも、やることはたくさんあるんです。

私は主に刀剣や鉄鏃(てつぞく)など鉄製の武器を扱っています。とくに鉄製の刀剣に興味があります。弥生時代から古墳時代の日本列島においていつから刀剣が生産され始めたのか、どういった技術で製作されたのか、などといった問いが意外とまだ未解決のまま残されています。

日本では弥生時代に鉄と青銅がほぼ同時に導入されました。青銅器は主に儀礼に使われるのに対し、鉄は実用品として使われ社会のあらゆるところに登場します。一般集落で出土するようなシンプルなつくりのものもあれば、巨大な墳丘から見つかる重厚で複雑な形状をしているものもあります。そんな鉄器のバラエティに魅力を感じています。

※鏃(ぞく):やじり。鏃は「やじり」とも読む。鉄鏃、銅鏃、石鏃など。

新知創造学際ハブと出会って

考古学の従来の手法は、モノのカタチが時間を経てどういう風に変わっていくか、一緒に出ている土器を見て時期を確定させたりして追って行くというやり方です。でも、いくら遺物とにらめっこしてても、内部構造や作り方などはなかなか見えてこない場合が多いです。ですから、学際ハブのような学際的研究を通してなら、次のレベルに行けるんじゃないかと期待しています。

学際ハブに出会う前から、従来の考古学研究と違ったことをやろうという気持ちはありました。でも、実際どうしたらいいか分からないムズムズが続いていました。学際ハブを通してマッチングしてもらい、きっかけというか刺激をいただいて、この分析法だったらこれが分かるかもと、自分の理解が深まったので、すごくありがたい機会でした。

いまX線CTと中性子実験を試しています。一番知りたいことがこの2つの研究手法で分かるので、ちょっとずつモノを分析しているところです。ほんとにちょっとずつですが。

銅鏡を観察する男性の写真
金研の銅鏡を見ているところ「研究成果が楽しみです」

J-PARCでの実験

J-PARCに課題を申請して採択されると、基本的に年に1回実験ができます。一気にドンと進むわけではないので、長い目で見て取り組んでいこうと思っています。これまで中性子実験はJ-PARCで3回、中性子イメージングと回折を行いました。1回目は鉄、2回目は青銅器、3回目も鉄です。イタリアのトリノ大学や、中性子に詳しいイタリア国立核物理学研究所の Francesco Grazzi先生と以前から交流があったので、共同研究者として協力していただいているところです。Grazzi先生は、海外の武器など近いものを分析されているので比較研究にも繋がるかなと考えています。

また、中性子で日本刀の分析を多数行っている北海道大学名誉教授の鬼柳善明先生にも共同研究者になっていただきました。鬼柳先生は日本刀に大変詳しいので、日本刀と古墳時代の刀の接点とか連続性についていつも興味深くお話を聞かせて頂いています。こちらが提供できる試料が古墳時代まで、鬼柳先生は平安時代以降の刀のデータを持っているので、古墳時代の技術が連綿と続いているのか、何らかの技術革新が起きているのか、いろいろ比較研究ができると思います。

X線CTと中性子実験

鉄製遺物は表面が腐食していることが多く、外から見ただけでは中の状況は分かりません。初めてJ-PARCで試験的に中性子を当てた試料は劣化が内部まで進んでいて、良好なメタル部分が十分残っていませんでした。錆びていく過程についてはいろいろ分かったこともありましたが、知りたかった細かい製作技術について説明できる結果は出ませんでした。

そこで、中性子実験の前に、X線CTで内部の状況を確かめることにしました。CTのデジタルデータを自分で解析し、白く光る良好なメタル部分が残っているか見ることで、中性子実験をやってもあまり意味がないものを除外できるので、必ず撮るようにしています。以前はX線CT撮影を分析会社に依頼していましたが、大変性能の良いX線CT装置が今年岡山大学文明動態学研究所に入ったので、より多くの資料の撮影が可能になりました。

中性子の実験はまだ進行中ですが、そのうちに鉄器の製作技術の実態解明に向けて手掛かりが得られると前向きに捉えています。

破壊分析についてこう考える

一度破壊したら戻らないので、唯一無二の資料の破壊は文化財保護の観点から極力避けるべき、あるいは最低限に止めるべきです。貴重な資料を正しく評価するためには情報が必要ですが、いままでは破壊でしか得られなかったことが、非破壊あるいは部分的なサンプリング(微細サンプリング)で評価できる時代になりつつあります。非破壊で分析を進めて、どうしてもサンプリングが必要ということであれば、そこで初めて実施するという流れが一番いいのかなと思います。いまは分からなくても100年後は非破壊でできるかもしれないので、後の時代のために残しておくという考えが主流で、分析は非破壊で、というスタンスになります。

X線CT撮影や中性子イメージング・回折などの非破壊分析でも得られる情報は大変多いので、できるだけ分析に出す試料数を増やしていけば確実に前に進むと考えています。中性子分析で資料の放射化が起こることがあります。古代の資料は微量元素として何が入っているか分からないので不安はありますが、今のところ問題になったことはありません。

※放射化:中性子などの照射を受けた物質が放射性物質に変化すること。放射化が起きるかどうかは元素の種類に依存するので、元素分析にも用いられる。

新知創造とは

新知創造とは、新しい知識を作り出してそれを活かしていく、目指すべきスタンスだと思います。今分からないことが分かれば、新知創造に相当すると思っています。

考古学者が描くストーリーにはいろいろな空白があるので、それを少しずつ埋めていければ目標達成だと言えるでしょう。しかも私たちは最先端の技術を使うことができます。これまでのストーリーは限られた知識で書かれているものなので、これからは、ストーリーの穴埋めを大きく超えて、想定していなかったストーリーを描くこともできるかもしれません。

正しいストーリーの穴埋めと、新たなストーリーへの書き換えができれば嬉しいなと思います。

本を見ている男性の写真
福井県敦賀市知育・啓発施設「ちえなみき」の本棚の前で(2025年6月撮影)

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