IKH - 新知創造学際ハブ

座談会(5月23日)の内容をまとめました。文理融合に対する思い、本プロジェクトへの期待を若い方に述べて頂いております。

 2024年5月23日に行いました座談会をまとめております。是非、最後までご覧下さい。

文理融合のカタチ:芸術×結晶作成

 司会:本日は、金属材料研究所(金研)にお越し頂き、ありがとうございます。芸術活動に携わっていらっしゃる若い三方、本所の大黒さんと推進室メンバーで、文理融合について、ざっくばらんにお話させて頂きたいと思います。(以下、敬称略)

  • 芸術と結晶作成の協働

 司会:まず、この座談会のきっかけにもなっている、松岡さんの作品についてお聞かせ下さい。松岡さんは新知創造学際ハブ事業を通じて金研の藤原研究室と協働し、作品を完成させられました。松岡さんが卒業作品の創作活動を金研で始めたのは、この事業が始まった時期と同じ昨年の秋頃とのことです。卒業までの限られた期間で、相当なご苦労があったと思います。その辺りのお話しを伺えますでしょうか。

 松岡:私は彫刻を専攻していて、金属を素材に表現していました。彫刻で扱われる金属は一般的な鉄やステンレスですが、今回は非鉄金属に立体構造を持たせた金属結晶を用いました。もともと金属特有の結晶構造に興味があって、素材自体を彫刻にできないかと藤原研のホームページを見てアプローチしました。昨年10月から結晶づくりを藤原研で始めたのですが、丁度文理融合の事業が始まったことはラッキーでした。最初は、ある立体を結晶で覆うような作品を想定していたので、形状がはっきりとしていて大きさのあるような結晶を考えていました。しかし、欲しい結晶の形がまったくできずに困っていたところ、あるとき予想外の形状の結晶が偶然できました。

 大黒:結晶作成は、作品のデザインと関係していました。使用する金属元素とその組成比、結晶の冷却方法を工夫することで、結果的に多様な形を持つ結晶ができました。状態図から色々なものができることは予想しましたが、作品に使える形の結晶ができるかどうかはわかりませんでした。確立されていない新しい取り組みであり、加えて時間的制約のある中で形状を変えた結晶をたくさん作ることも大変でした。

 藤原:結晶は、身近にたくさんありますが、作品の素材である結晶自体に形を持たせた点が新しいと思います。普段、結晶を作っていることからいうと、例えば表面がガタガタしているものは半導体としての特性は悪いものです。半導体としては良くない結晶も、芸術的には綺麗だと見なされることが面白いところです。

 司会:芸術と結晶作成の合作ですね。この事業を始めてみて、融合には好奇心が大事と感じます。誰も経験がないので、やってみないとわからない。では、一緒にやってみましょうとなる。そこが楽しいと思います。人と人の新しい繋がりで未知の化学反応を起こすことも本事業のミッションです。松岡さんの作品は、学際ハブの最初の成果としても、しっかりアピールさせて頂きます。

座談会に集まって頂いた、芸術と結晶作成に携わる若い方々。左から順に、松岡 美穂さん、寺田 博亮さん、岩永 理紗さん、大黒 晃さん。

  • 素材に宿りしもの

 寺田:金属材料や結晶を研究する本来の目的にも興味があります。利便性から利を外した素材をアートにしているからこそ、その利便性が何であるかを理解して作品を見ることにも意義があると思います。

 大黒:研究室では、シリコンという半導体に関する研究を行っています。半導体は電気を通す導体と電気を通さない絶縁体の中間の電気的性質を持っており、現在の電化製品の制御になくてはならないものです。また、量子コンピュータなどの最先端科学技術を含め、その利用範囲はとても幅広く、そのために特性の向上が追求されています。

 岩永:松岡さんの作品を見て、金属の結晶って自然にできるものなのか?特殊な方法で作るものなのか?またそれを研究している方々と協働するとはどういうことなのだろう?と興味を持ちました。作品を見る方に、松岡さんが科学の側面をどこまで伝えたかったのか?ということも知りたいことです。

 寺田:理系では理解が重要とされることが多いと思いますが、芸術では説明できないところにも魅力があります。この部分までは理系の力で理解できて、それでも残る、今、説明ができないものがアートになると協働として面白いと思います。

 松岡:アートの語源には人の手で行われるもの全般という意味が含まれていますが、これは文理融合の交点になると思います。例えば、形はひとつの契機に過ぎず、さまざまな要素が関わることで成り立っている。それは協働でも同じことだと思います。また、球体でも科学的に説明できる場合もあれば、言語で説明できる場合もあります。素材がどのように作られ、物の性質などを私は科学的に理解して、それを制作に活かしたいと思っています。

 司会:芸術作品から見出されるものに、作者と鑑賞者、そして、その作品の背景が深く関わるなら、新たな価値観を作品に加えることに材料科学が寄与できるように思います。これは材料科学が関わる文理融合のひとつの視点でもありますね。事業の中でも、この様な話しを継続したいと思います。

松岡美穂さんの作品「Connotation and extension of time」(左)と素材であるビスマス・インジウムの結晶(右)。

  • 共創の場:文理融合を目指して

 司会:学際ハブ事業の内容である文理融合に話しを進めましょう。お考えはありますか?

 寺田:文理融合の「文」とは、どの範囲でしょう?

 司会:事業では広く捉えています。例えば、分析対象となる文化財に古書がありますが、そこに書かれている内容は文学、歴史学の観点で大事なこともあります。この様な分野も文理融合の対象です。同様に恐竜の骨や美術工芸品にも文化財と関係することがあると思います。

 佐藤:文には拡がりがあり、解釈の仕方も様々です。そのため、どの様に理と結びつくのかがわからないところに面白さがあります。面白いじゃないかという気づきと、なぜそこが結びつくのかを理解する楽しさがあると思います。

 岩永:以前、「時間」に関する作品で、同じ大学の理系の研究生と共同で時計を制作しました。鑑賞者はその時計を実際に操作することで、作品を体感できました。学校教育のかたちについて考えた別の作品では、街中を移動しながら、自分自身も作品の一部となって、 参加者と一緒に手を動かして考えましょうという状況を作りました。作品を見てくださいだけではなく、実際に触れ合える場を作ることが融合にも重要だと思います。ワークショップも一つの方法でしょう。一方、近くにいるかも知れない協働すると面白いことができる相手と、どの様につながりを作られるかを考えることも大事だと思いました。

 司会:学際ハブ事業でも、一緒にやってみるところからスタートしていることがあります。また、研究面では協働を支援していますが、つながりを作るためには広報活動も大事と考えています。材料科学拠点の金研で考えてみると、一般の方との結びつきに、文化財、芸術を通じて材料研究の大切さを実感してもらう工夫が、文と理の方々でできると思っています。新たな共創の場にしたいですね。

 寺田:極端に言うと、金研の研究活動をすべてビジュアル化してみると良いと思います。装置の中で起っていることや目で見えない現象を、別の形に置き換えて感覚的に伝えるのもひとつです。例えば彫刻などで表現するのはどうでしょう。また、そのために色々な感性を持った人々をワークショップに集めて、頑張ってコミュニケーションすることで、解釈しづらい情報からイメージを膨らませた作品ができるかも知れません。最初は思っているものと違った作品ができても構わず、何度もやり取りを重ねることで、より意味のある共同作品に近づけると思います。この様な活動の積み重ねは、普段の研究の説明も変えて行くことでしょう。

 松岡:やり取りを重ねていくという点でも実際に触れることは大切ですね。

  • 新知創造学際ハブ事業への期待

 松岡:学際ハブでは特に文化財について研究を進められています。私達が創作しているものは文化財そのものではないのですが、身の回りにあるものが文化財になる可能性はあります。

 司会:先程もお話ししましたが、協働の範囲は広く捉えています。分野による文化の違いに触れることで得られることは多く、それが理工の専門分野にフィードバックできることもあります。個別一対一の研究だけではなく、多くの方(ステークホルダー)と楽しみながら、研究や活動の可能性を広げたいと思っています。

 岩永、寺田:面白い取り組みと思います。

 松岡:皆が論じ合って、ひとつのものを作り上げることに魅力を感じます。芸術分野も学際ハブの方々と協働していければ良いと思っています。

 司会:本日は、貴重なお話を頂き、ありがとうございました。


【座談会】

日時:2024年5月23日(木)14:00〜16:30

場所:金属材料研究所 国際教育研究棟セミナー室2

対談者:松岡 美穂、寺田 博亮、岩永 理紗、大黒 晃

新知創造学際領域形成推進室

 藤田 全基(司会)、佐藤 敬浩、大石 毅一郎、

 藤原 航三、具志堅 美樹、今野 智恵子

量子ビーム金属物理学研究部門

 金野 友紀

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