
2月14日の午後、仙台市の東北大学 金属材料研究所において、新知創造学際ハブの一般講演会が開催されました。オンライン配信もあり、合わせて130人以上の参加がありました。この前日から同会場では新知創造学際ハブの研究会が開催されており、全国から集まった研究者も参加しました。
尚、今回の講演会のアーカイブ配信はありません。
ロバート キャンベル氏による特別講演
ロバート キャンベル氏は現在、仙台市の美術や映像文化の活動拠点「せんだいメディアテーク」の館長を務めています。この日は東京から駆け付け、「工芸から読みとく歴史と『今』」と題して講演を行いました。
冒頭で、とても美しい陶磁器「付藻茄子(つくもなす)」の写真が映し出されます。中国で作られ、戦国時代に茶を嗜んだ天下人が所有したとされる抹茶を入れるための容器です。歴史書によると、豊臣家が所蔵していたときに大坂夏の陣で粉々に砕けたことになっていますが、現在の見た目は傷一つありません。しかし、キャンベル氏が実際に手に取ったときに、中を覗いてみると継いだ後が見えたのだそうです。X線で撮影した像では、粉々のかけらがつなぎ合わせられているのが分かりました。徳川家康が漆塗りの名人に命じたことだったそうです。
元通りに修復する技術があったことにも驚かされますが、傷つけられたことを悟られないように直すことにどんな意味があるのか、キャンベル氏は話を進めます。ウクライナで戦火に遭い、めちゃくちゃになった家から拾われた鳥の絵皿は、鳥の体の真ん中で割られた跡を残したまま修復され作品となっていました。日本の金継ぎのような技法で、敢えて傷を残すことでメッセージを伝えています。
講演の後に、金研の佐々木孝彦所長から「このお話を学際研究プロジェクトはどう読みとけばいいでしょうか?」という問いに対し、キャンベル氏は、「モノに即して無心にたくさんの目で『読みとく』ことがキーワードになる。揺れている民主主義社会を生き抜く上でも」と答えました。


新知創造学際ハブの研究者による講演
休憩を挟んで、新知創造学際ハブの参画機関から中堅研究者2名の講演が続きました。多くの参加者が熱心に聞いていました。
初めに、岩手大学の学際研究組織「平泉文化研究センター」から理工学部の桑 静(サン ジン)准教授が、「東アジアの陶磁器と平泉——科学と歴史でたどる千年のうつわ」と題して、キャンベル氏の講演と絡めながら平泉で発掘される陶磁器について解説しました。桑静氏は大学院の博士課程から岩手大学で工学を学び、2012年の平泉文化研究センターの発足後、陶磁器の分析を始めました。
桑静氏は、陶磁器研究に関して考古学的研究と科学分析を用いた研究がまだ十分に統合されていない現状を説明しました。一方で平泉では、他の遺跡に比べて埋蔵された年代幅が小さく出土量や出土状況も限られているので、考古学的情報と科学分析結果を組み合わせれば、年代や産地、流通を示す「指標」となり得るデータを取得しやすいと言えます。その利点を活かし、活用できる基礎データの整備を進めていきたいと述べました。平泉文化研究センターでは、持ち運び可能な分析機器を持参することで、中国の福建省・浙江省などで出土した陶磁器との比較を行い、当時の陶磁器の流通ルートを推定しています。また、新知創造学際ハブの共同研究では、中性子や放射光などの量子ビームを活用していることが報告されました。


続いて、島根大学 法文学部 考古学研究室の岩本 崇 准教授が「古墳時代の銅鏡と原料金属」と題して講演しました。岩本氏は緻密な形状観察により銅鏡の分類を行い、銅鏡研究の第一人者と呼ばれています。新知創造学際ハブに参加するのと同時に科学分析を始め、積極的にさまざまな手法を試しています。
講演では、冒頭、新知創造学際ハブが所有する銅鏡を模したうちわを手に銅鏡の部位と名称を説明し、古墳時代の銅鏡の概要を述べました。銅鏡をはじめ青銅器については、錆を使った分析が可能なことから、40年以上前から鉛(Pb)の同位体比分析が行われています。岩本氏は、そのデータの蓄積があるが、課題も少なくないことを説明しました。その上で、青銅器の評価には科学分析が不可欠だが、破壊分析を要するため、非破壊で高精度なデータを得られる手法を探っていると述べました。そして、古代金属製品の資源利用史を知ることは現代社会の課題解決にも繋がると考えていると締めくくりました。


参加者から
金属材料研究所(仙台市)の講堂に足を運んで参加してくれた方にはアンケート用紙をお配りし、オンラインで視聴された方にはウェブ上のアンケートを行いました。70人以上の方にご回答をいただき、ありがとうございました。
多くの方がロバート キャンベル氏の講演について感想を書いてくださいましたが、「ロバート キャンベルさんも桑静さんも、母国語以外の言葉を用いて研究し、その成果を報告していることに敬意を覚えました」という感想もありました。また、「全ての講演について『読みとく』がキーワードだったと思う。手でさわってみる、蛍光X線分析、鉛同位体比分析、今まで文字で書かれたものを「読みとく」が中心だったものが広がり、より深い理解に繋がってゆくのだと思う」という記述もありました。「専門的すぎる」という意見もありましたが、「よく分からないところもあるが、それぞれ面白い」という意見も多くみられました。
また、文系と理系の共同研究について、7割の方が「応援したい」、3割以上の方が「挑戦したい」と答えてくださいました。
学際研究のあり方や、文理融合研究、文系理系というくくりに思いを馳せてくれた参加者も少なくありませんでした。本プロジェクトは、「人文科学と材料科学」の学際研究と冠した取り組みですが、その活動を通して、それまでは縁がなかった考古学者同士、科学者同士の出会いや気づき、議論が始まっています。新知創造学際ハブでは、これからも学際研究コミュニティの成長の過程をみなさんに公開していきます。
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- 岩手大学 平泉文化研究センター
- 岩手大学 平泉文化研究センターとは|新知創造学際ハブ
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